【独自】がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却

Time:2021-07-16Department:

政府は、がんの治療や臓器の検査をする医療用の放射性物質の国内製造を近く再開する。およそ10年ぶりとなる国産再開で安定供給につなげたい考えだ。

 

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(写真:読売新聞)(読売新聞)

 

「放射性医薬品」などに用いる放射性物質は、原子炉で中性子を照射するなどして製造する。2011年の東京電力福島第一原発事故の影響で、一時、日本中の原子炉が停止したため、製造できなくなり、海外からの輸入に頼っていた。しかし、放射線を出して崩壊し、半分の量になる「半減期」が非常に短いものもあり、長期保存ができないことから、安定供給のために国産再開が望まれていた。政府の原子力委員会で13日、文部科学省などが所管する日本原子力研究開発機構が製造再開の方針を示した。

 

 製造に使うのは同機構の研究用原子炉「JRR―3」(茨城県東海村)。10年に定期検査で運転停止するまで、がんの治療に使う「金198」と「イリジウム192」を製造していた。福島第一原発事故による長期間の運転停止を経て、今年2月に再稼働しており、今月12日に本格的に供用開始した。

 

 文科省によると、製造を再開すれば、「金198」は国内需要の70%、「イリジウム192」は100%を賄えるという。

 

 また、国内で最も使われる心臓機能などの検査用の「テクネチウム99m」の原料となる「モリブデン99」についても、製造に向け、照射試験を行う。国産化できれば、国内需要の3割程度を製造できると試算している。

 

 このほか、運転停止中で、再稼働を目指している同機構の高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)でも、がん治療に効果があることが確認されている「アクチニウム225」の製造に向けた研究を行いたい考えだ。

 

 両施設とも初めて臨界に達してから30年以上経過しており、老朽化対策も課題となる。

 

◆放射性医薬品=放射性同位元素(ラジオアイソトープ)の放射線を用いる医薬品。体内に投与し、放射線を撮影することで臓器の状態を検査できる。注射や経口投与でがん細胞を死滅させる治療に使うものもある。

 

(読売新聞)