日産は全固体電池の量産化に向けた試作に着手した(神奈川県横須賀市の総合研究所)
日産自動車が次世代型の「全固体電池」を試作する設備を初めて公開した。電気自動車(EV)向けの今の主流であるリチウムイオン電池に比べ、航続距離が伸びるなど潜在力が大きい全固体は、開発競争が過熱している。まだ手作業も多く試行錯誤を繰り返す段階だが、日産は2028年度の量産化に向けてアクセルを踏む考えだ。
「こちらはドライルームといって、非常に乾燥した空気になっています」。神奈川県横須賀市の日産の総合研究所のある一角の説明だ。セ氏マイナス60度まで室温が下がらないと水が凍らないほど乾燥した空間。水分に細心の注意を払う室内では、21年後半から全固体電池の試作が進む。
全固体電池とは充放電を担うイオンが通る電解質が液体ではなく固体である電池を指す。現在のEVなど電動車が採用しているのは液体のリチウムイオン電池だ。だが、「有機溶剤を使うがゆえに材料の反応による性能低下や発火のリスクもある」(日産の土井三浩常務執行役員)と課題も抱えている。
こうした状況の中、次世代電池として全固体電池への注目が高まっている。総合研究所の試作室で進むプロセスはこうだ。まず材料をかき交ぜてつくったインク状の黒い液体を金属箔に塗布して乾燥させる。できた板状の電極をプレス機で薄くして電池のサイズに裁断する。その後は正極、負極、正極、負極といった具合に積み重ね、フィルムで封止すれば電池セルができあがる。
工程自体は至ってシンプルに思える。ただ、現時点では電池セルができるまでに最短で2日かかる。リチウムイオン電池に比べて全固体は破損しやすい。積層や封止など様々な工程で作業が慎重になってしまうほか、手作業の部分もまだ残っているからだ。「今は作業性はかなり苦しい」(同研究所)。一つ一つの工程でより生産性を高めるための技術開発が日々進む。
試作では調達コストの高い希少金属(レアメタル)に代わる材料を使う技術なども研究している。研究テーマは山積みだが、一方で量産が実現できた時の期待は大きい。従来のリチウムイオン電池に比べ、全固体は航続距離が2倍に伸びたり、充電時間が3分の1に短縮できたりするなど性能が飛躍的に高まるからだ。
トヨタ自動車など競合も全固体の開発に乗り出している。海外では台湾の輝能科技(プロロジウムテクノロジー)など、すでに年内の量産を見据える企業もある。競争環境は激しさを増すが、日産は材料段階から自動車生産まで一貫して、自社で手掛ける点を強みと打ち出す。ついに試作段階に突入した中で、示した時間軸を着実に達成する上で、まずは小さな成果を積み重ねていくことが日産に求められる。
日経産業新聞
2022/5/15